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角松敏生、音楽の均一化に警鐘
 リテイクアルバム第2弾『SEA IS A LADY 2017』(87年リリースのインスト作品『SEA IS A LADY』のリテイクアルバム)で、『第32回 日本ゴールドディスク大賞』の「インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞した角松敏生。彼が今、リテイクアルバムに取り組む狙いとは? さらに長く一線を走り続ける角松に、今後、“アーティストとして生きていく”ために必要なコトを聞いた。

【写真】角松敏生のソロカット

◆40代から50代のリスナーが徐々に戻ってきている

――昨年発表された『SEA I S A LADY 2017』が『第32回 日本ゴールドディスク大賞』で「インストゥルメンタル・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞。大きな反響を呼んでいます。
角松 リテイクアルバムを出す理由の1つには、オリジナルアルバムを出すリスクが高い時代になったということもあります。何のタイアップもなく、作品の力だけで制作費をリクープするだけのセールスをあげるのは非常に難しい。だったら、まず新たな動きをするための布石として、“角松敏生の音楽を聴く”という基本的な機運を高めることが先決だな、と。そのフックの一環として、16年に『SEA BREEZE 2016』(デビューアルバム『SEA BREEZE』のリテイクアルバム)、去年『SEA IS A LADY』を出したわけですが、リテイクアルバムは諸刃の剣なんですよ。もとのアルバムに思い入れを持っているオーディエンスは多いし、それを作り直すことは、お客さんの思い出を否定することにもなりかねないので。だからこそ僕は“自分としては完全に満足しているわけではないので、やり直させてほしい”と明言するんですよね。『SEA IS A LADY 2017』のときは“ギタリストとしての自分に落とし前をつける”という言い方をしていたのですが、元作品を超える作品になったと思うし、オーディエンスも別物として楽しんでくれたのは幸いでした。セールスが好調だったのは、リリースのタイミングも良かったんだと思います。

――タイミングというと?
角松 80年代に僕の音楽を聴いていた40代後半から50代のリスナーが徐々に戻ってきているんです。16年に35周年の記念ライブを横浜アリーナで開催したのですが、30周年のときより明らかに客足が良かった。80年代に熱心に音楽を聴いていた世代が、ライブにも足を運ぶようになっているんだと思います。懐かしさを期待されているところもあると思いますが、それに合わせてリテイクアルバムを作ったわけではないんですよ。僕はテレビにもほとんど出ないし、大きなタイアップを取れるようなパイプも持っていない。作品の質だけで顧客を確保してきたので、満足できない過去の作品を作り直すことがどうしても必要だったんです。

――新作『Breath From The Season 2018〜Tribute to Tokyo Ensemble Lab 〜』で、角松さんがプロデュースしたアルバム『Breath From The Season』(Tokyo Ensemble Lab, 角松敏生/88年)と同タイトルを使用したのも落とし前の1つですか?
角松 そうですね。大阪の名門ビッグバンド、アロージャズオーケストラとのライブセッションが機縁でもありますが、自分のなかの“ジャズ的なもの”をようやく表現できたという実感が持てました。しかし実は今回のアルバムも前作も、新作を含む新しい試みに向けた施策の1 つなんです。そこに向かうために1つひとつ点を打って、それらを結び付けた線の行く先に、自分の新たな目標があります。もちろん、今のマーケットも意識しているし、顧客に喜んでもらえる作品を提供したいという気持ちもありますけどね。

――恒例のセルフライナーノーツは今回もすごいボリュームで、88年当時の状況、リテイクアルバムに至る経緯が詳細に書かれています。
角松 そこまでやらないと正確に伝わらないですからね。少し前に“シティポップが流行っているが、どう思うか?”という取材を受けたのですが、今の若いリスナーは80年代のポップスの歴史を知った上で楽しんでいるのではなく、“ちょっといいな”という感じで聴いているだけだと思うんです。当時の音楽の魅力を伝えるためには、音楽はもちろん、ファッション、恋愛観、政治経済的背景を含めて、時代そのものを知ってもらう必要がある。最近は2世代で僕の音楽を聴いてくれる人も増えているので、20代以下の若いリスナーにしっかり伝えるためには重要なポイントだと思いますね。教育というと偉そうですが、音楽の背景や歴史を知ってもらえれば、この先、我々も仕事がしやすいですから。

――角松さんは昨年10月に行われた音楽セミナーイベント『SONIC ACADEMY FES EX 2017』で講師を務めましたが、それも“下の世代に音楽を学んでほしい”という意志の表れだったのでしょうか?
角松 制作現場、活動方法を含めて“こうだったんだよ”ということはまず伝えられるかなと。“昔は良かった”ということではなく、例えば“あの音はどうやって録ったのか?”という質問には答えられますからね。“すべて生の楽器で、アナログのコンソール、アナログのマルチテープで録っているから、もう同じ音は再現できないよ。機材がないからね”ということだったりするのですが、それを伝えることも大事だと思うんです。Pro Toolsが登場して、すべてがデジタル化されたことで、逆にできなくなったこともあります。だから“アナログに回帰しろ”ではなくて、知識として知っておいてほしいのです。その上で過去のミュージシャンの意志、ソウルみたいなものをリスペクトしても損はないですよと。そういうことです。僕ら世代も同じことをやってきましたからね。ビートルズの曲を聴いて“このピアノの音はどうやって録ってるんだろう?”と調べて。もちろん同じようにはできないから、代わりになる機材を探して、いろいろと試しながら自分たちなりに作品を作ってきたので。

◆ネットの普及によって、世界中の音楽が均一化されている

――サブスクリプション・サービスの普及に伴い、カタログへの注目が高まる一方、新曲への関心の低下も懸念されています。
角松 大衆音楽は1920年代から1980年代の間に完結していて、それ以降の音楽はすべて焼き直しだと思っているんです。さらにネットの普及によって、世界中の音楽が均一化されているんですよね。80年代まではアメリカ発の音楽がとにかくすごくて、我々も憧れていたし、“現地に行かないと録れない音”というものがあった。プログラミングサウンドが主となった今は、国や地域による音の違いがなくなって、世界共通になっていますよね。ジャンル分けも曖昧だし、いろいろな意味で差がなくなっている気がします。

――新しい音楽が生まれづらくなると、新作をリリースするハードルはさらに上がりそうですね。
角松 そうですね。個人的にはメディアミックスを見直すべきだと思っているんです。古い手法だと思われがちですが、アーティスト発のメディアミックスには可能性があるんじゃないかなと。ミュージシャンが旗振り役を務める、音楽を中心としたメディアミックスというか。ただ、それを実現するためには幅広い知識が必要ですけどね。例えば音楽を軸にした舞台を作るとしたら脚本、役者、舞台美術、衣装、大道具、小道具など、すべてを会得しないといけない。僕は音楽劇の音楽監督を務めたこともありますし、下北沢の本多劇場で座長公演を行ったこともありますが、まだまだ得なければならない知識や経験は山ほどあると感じました。

――音楽以外の素養も求められる、と。キャリアが浅い若い世代のアーティストにとっては、ますます難しい時代になりそうな気がします。
角松 大変だなとは思いますが、若い世代にとってはそれが当たり前だろうし、時代の変化に自覚的なミュージシャンはすでにいろいろ考えていると思いますよ。個人的には分を超えた欲を持たなければやっていけると考えてます(笑)。もし大金を得られたとしても、制作環境を守るための投資などに使うべきだと思います。このスタジオ(取材が行われたプライベートスタジオ)もそれまで蓄えたものをすべて吐き出して作ったので、ほぼ裸一貫からのスタートでした。ここを作ったおかげで『SEA IS A LADY 2017』『Breath From The Season 2018』をリリースできた。外のスタジオを使えば、制作費は3倍でしたからね。自分のオーディエンスに満足してもらえる質を保つためには必要な投資だったと思います。まぁ、そろそろ自分自身も新たな目標に向かいたいところですが、本当にやる価値があるのか、その作品でリスナーは感動するのかを見極めながら、進めていきたいですね。

(文/森朋之 写真/西岡義弘)
[18年5月14日号 コンフィデンスより]

(提供:オリコン)
角松敏生(写真/西岡義弘)
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